猿も木から落ちる

帰謬法ならぬ帰ナチ法*1であることが明らかなトリアージ騒動だが、呆れたことに「全体最適概念を用いたトリアージの説明はホロコーストに通底する」という明白な誤謬をいまだに振りかざしている人がいるらしい。

だってさあ、「トリアージ」概念の濫用を批判するためにホロコーストに言及する議論には(そもそもそれを理解しようとする気すらなく!)恐怖しちゃうのに、相続税の廃止に賛成しない人間をポル・ポト呼ばわりする国会参考人のことはなんとも思わないような人間との間で、再配分についてのまともな議論が成立するわけないじゃん。
応えるには及ばんよ - apesnotmonkeysの日記

この記事の主id:apesnotmonkeys氏は、ブログ界では戦争責任にかかわる議論で名の知れたid:Apeman氏と同一人物である。同氏をはじめとする方々は、昨年夏にid:HALTAN氏を人民の敵扱いして散々リンチにかけていた経緯があるのだが、まだ性懲りもせずこんなことを言っているようなのだから呆れるほかはない。

ともあれ、同氏が「事情ををご存じない方のために」として挙げている記事群2008-08-08は歪曲が甚だしいということだけは指摘させてもらおう*2。そもそも件の騒動において「トリアージ」と「ホロコースト」を結びつける議論は根本から破綻しているのだから「理解」などできなくとも、する気がなくとも当然なのである。これを非難することは、単なる言いがかりとしか言いようがない。

参考までに、私の過去記事からこの点についての議論を再度抜粋しておく。

ホロコーストトリアージの共通点はどこにあるか?「資源の希少性」と「合理主義」しかないのである。ホロコーストトリアージを関連づけている人たちは、この2点だけの共通点だけの根拠しか持っていないのである。
しかし、「資源の希少性」を「合理主義」的に処理する問題は世の中にあまりにもありふれていて、この指摘にはほとんど意味がない。そんなことを言ってしまえば、企業内の人員配置計画も、我が家の家計も、すべて「ホロコースト」と同型の論理に支えられている、と言えてしまう。「丸い」というだけの共通点を例にとって、「月」と「スッポン」を同列に並べるようなものだ。その指摘が意味を持つのは、位相幾何学の啓蒙書の中ぐらいだろう。
このような「共通点」を指摘する論法で一番重要なのは、「共通点」として問題の本質を衝いた要素を拾い上げることである。ところが、今回の問題は「人道性」という、ホロコーストにおいて最も極端に欠けていたものを度外視している。
このような論法が許容されるなら、あらゆるものを同列に並べることができるだろう。私が再三挙げてきた、「お前は人間である、ヒットラーも人間である、よってお前とヒットラーには共通点がある」という、侮辱以外に何の役にも立たない論法を使えばよいのだ。
「論法の同型性」論法の危うさ - 吾輩は馬鹿である

くれぐれも、読者諸賢がid:Apeman氏の印象誘導に引っかからないことを望むものである。確かに、同氏は南京事件をはじめとする戦争責任関連の議論において知識豊富であり、ブログ界では一目置かれてしかるべき人ではあるが、しかしながらこの件ではこの人は完全に誤っているのである。「猿も木から落ちる」というが、同氏はこの種の議論にはまったく通じていないようであるということは断言せざるを得ないのである。

*1:Reductio ad Hitlerum - Wikipedia

*2:もっとも、同記事中のApeman氏の異様な文体を見れば、同氏とHALTAN氏のどちらが加害者でどちらが被害者であるかは一目瞭然かもしれないが。