「エア御用」と「放射脳」を同列に並べるのは「妖怪どっちもどっち」

上の記事の行きがけの駄賃に、同じくid:logic_master氏のhttp://d.hatena.ne.jp/logic_master/20111106/1320589341にも触れておく。

「エア御用」を批判するなら、牧野先生や押川先生のような真摯な人たちを「放射脳」呼ばわりしていた人たちにも一言あってしかるべきだろう。「エア御用」を批判して「放射脳」タグを使う人は論外もいいところだと私は思う。

http://d.hatena.ne.jp/logic_master/20111106/1320589341

個人的には放射線被曝の影響に関する牧野淳一郎氏や押川正毅氏の主張は極論だと思う*1が、そこまで感情的な非難をしていた人たちがいただろうか。私は寡聞にして知らないのだが*2。実際、「放射脳」呼ばわりされた人と両氏の間には厳然たる差があることには疑う余地はないのではないか。

それはさておくとしても、私の見る限り「放射脳」という言葉は福島県民を傷つけ農産物の風評被害に繋がるような無神経な発言をしている人にもっぱら向けられているのに対し、「エア御用」呼ばわりされている人の発言内容は少なくとも自明に不当なわけではないので、これを一緒くたにするのは「妖怪どっちもどっち」に思えてならないのだが、いかがであろうか。

これを一緒にするのは「トンデモ」と「科学教」、「自虐史観」と「自慰史観」、「反日日本人」と「ネトウヨ」「コヴァ」などを同列視するようなものだ。いずれもレッテルとしては下品であり口をはばかるようなものであるが、それに付随する立場には明らかな優劣がある。そのことには留意すべきであろう。

追記

なんだか牧野氏から枝葉末節な部分に反応が来たので一応最小限だけ言及しておく。

これは単にこの人が全電源喪失の意味も私の見積もりの意味もまるで理解する気がないかあるいはその能力がないというだけのことである。

Twitter. It's what's happening.

つまり、「全電源喪失」の時点でここまで事態がエスカレートするのは不可避だったと?最近に至っても専門家がそれに反する見解を出している*3のに、あなたからそれに対する反論が出ていた記憶はありませんし、あなたがリンク先の奈良林氏ら以上に原子炉の仕組みを正しく理解していると考える理由もない以上、あなたの見積もりがそこまで正しいと断言する度胸は私にはとてもありません、とだけ述べておきます。

追々記

牧野氏がまだ絡んでくるので。正直、この人の他人に対する態度には違和感があったが、まさか人をのっけから馬鹿呼ばわりするような無礼な人とは思わなかったし、そうとわかっていれば言及しなかったのだが、こちらも腹の虫が治まらないので。しかし、どこの誰とも知らぬ「馬鹿」*4が脚注の中で一言触れただけのことにそれほど噛みつくとは、一体何がそんなに気に食わぬのだ?本記事中の位置づけという意味でもあなたに対する言及という意味でも枝葉末節ではないか。まして本記事自体が前記事への蛇足というようなものなのだから、まったくもって揚げ足を取られた気分である。

あなたがリンク先の奈良林氏ら以上に原子炉の仕組みを正しく理解していると考える理由もない以上、あなたの見積もりがそこまで正しいと断言する度胸は私にはとてもありません、とだけ述べておきます。

この「専門家の見解」、3/11 の午後4時に正しい対応ができていたら1号機については炉心溶融までの時間を引き延ばすことができたかもしれないという意味なので、水素爆発が起こってからの話とは無関係。

Official journal of Jun Makino

そんなことはわかっている。だとすれば「全電源喪失」(前追記引用部参照)云々というのは何なのか?これはあなたがそんなことを言うから探してきた話なのだが。

私も 3/11 夜の段階では「水を注入できればまあ燃料棒破損は避けられ るかもしれない」と、引用先の見解と類似で当時の実際の状況と現在されて いることから見るとまあ随分楽観側に外したことを書いてる。

Official journal of Jun Makino

だとすれば私はその点に関してはあなたの見解を記憶違いしていたかもしれない。その点はお詫びさせていただく。だが、だとすればなおのこと「全電源喪失」云々などというのは私への反論として的を外しているのではないか。

まあ、この人の思考過程は面白い。専門家Aと専門家B(まあ私は原子炉の専門家じゃないんだけどさ)でどっちか正しいか自分は判断できないから、自分の考えに近いほうも正しいかもしれない、という形式になっている。
この形式の思考自体は必ずしもいけなくはないんだけど、問題はここでの「自分の考え」が実は専門家Aと専門家Bの考えのどちらにもサポートされてないものだということ。

Official journal of Jun Makino

「自分の考え」?私は、あなたが言うような意味での(つまり、当時の状況がどうだったかという点に関する)「自分の考え」を述べたつもりはない。当時の合理的な予測には幅があり得て、あなたの見積もりが唯一の合理的な解ではないと言っているだけだ。実際、私自身、当時あなたの日記を見ていて納得させられた点と疑問に思った点があり*5、だからこそ「幅がある」と書いたわけだ。
それに、私はあなたと奈良橋氏を同列の「専門家」とは思っているわけではない。あなた自身「私は原子炉の専門家じゃない」と言っておられることであるし、そういっても失礼には当たるまい。まして、あなたの見積もりは情報が限られている段階で概算的に出したものだ。そういう状況下ではあなたの見積もりは質が高いものであると私にも思えたし、専門外の問題に向き合う姿勢としては学ぶところは多かったのだが、それとこれとは全く別の話だ。情報が当初より豊富な現在、あなたより知識が豊富な人がゆっくり解析した結果があるとすれば、そちらの信頼性を論ずるまでもなく却下することは不合理であろう、というだけの話である。

とはいえ、馬鹿と名乗る人に私が正しいと断言されるのも嬉しくないかもしれないから、特に意見を変えて欲しいわけではない。

Official journal of Jun Makino

まあ私も、思いこみで突っかかってくる人と議論して得られるものが大きいとは思わないので、あなたに「特に意見を変えて欲しいわけではない」。ただ、あなたの尻馬に乗ってやいのやいの言っている連中に「どや顔」させておくのは癪に触るのでね。

*1:事故の重大性の見積もりに関する牧野氏の見積もりを批判するものではない。ただし、不確かな情報しか得られない状況だった当時、合理的な見積もりにはかなりの幅があり得た。一番悲観論寄りだった牧野氏の指摘が不幸にして一番当たっていたことは多かれ少なかれ結果論であり、牧野氏との対比で「エア御用」と貶められる物理学者たちの分析能力を嘲笑するのはかなりの部分不当である。

*2:対して、牧野氏の菊池誠氏への攻撃のやり方は、単に主張の批判を超えたやり過ぎの部分があるように私には思える。

*3:一次情報が見つからないのが残念である。

*4:ついでに言うと、牧野氏は経緯を知らぬとは思うが私は「馬鹿」を自称しているわけではない。私をいきなり馬鹿呼ばわりした人間が他にもいて、そういう連中に当てこすりを言っているだけである。まあ、そんな事情と関係なしに、仮に自嘲や謙遜で「馬鹿」と言っていたのであろうと、赤の他人がその人間をいきなり「馬鹿」と面罵されれば怒りを買うのは当然である。いい大人がそんな礼儀もわからないのか?

*5:その点の詳細を書くとまた絡まれそうだし、元々原発自体に関する議論はやりたくないので、この点への質問は一切お受けできない。